どんな時代、どんな民族も、おとなはこどもに未来を託してきました。受難がつづくチベット(注1)も例外ではありません。「しっかり勉強するんだよ」と母親に背中を押され、この映画の主人公オロがチベットから亡命したのは6歳のとき。いまはインド北部の町ダラムサラで、チベット亡命政府が運営するチベット子ども村(注2)に寄宿し、学んでいます。「なぜ母はぼくを異国へ旅立たせたのだろうか」。自力でその答え=生きる道を探し求めるオロの姿を一台のキャメラが撮影しつづけました。
監督は岩波映画出身の岩佐寿弥。土本典昭、羽仁進、黒木和雄の演出助手を経て、1960年代後半から70年代にかけて、映画の常識を覆すアバンギャルドな作品を連発したことで知られます。本作でも主人公の少年と監督自身をまるで“孫とおじいちゃん”のように画面に登場させるなど、その自由な精神は77歳になったいまもまったく変わりません。
「映画の着手から完成までの3年間に、ぼくのなかでオロは〈チベットの少年〉という枠を
こえて、地球上のすべての少年を象徴するまでに変容していった」—— 岩佐寿弥
映画の最後でオロは「それでも、ぼくは歩いていく」と決意します。現在のチベットをめぐる状況は、どんな時代、どんな社会と比較しても格別に悲しい。しかし、悲しみを乗りこえてオロがたどりつく決意は、21世紀という多難な時代を生きる「地球上のすべての少年」に共通するものです。チベットの少年と日本の老監督が紡ぎ出すこの物語は、暗闇に立つ一本のろうそくのように、私たちのこころに“生きる希望”を灯してくれます。
注1)受難がつづくチベット
ヒマラヤ山脈の北側に広がる「世界の屋根」に存在したチベットは、いまは中国の一部になっている。1959年に指導者ダライ・ラマ14世が亡命、インド北部のダラムサラにチベット亡命政府を樹立した。現在のチベット難民数はインド・ネパールを中心に全世界で約15万人と言われている。
注2)チベット子ども村
Tibetan Children’s Villages(略称TCV)。中国で危機に瀕するチベット語、チベット文化の教育機会をこどもたちに与えたいというダライ・ラマ14世の意向で1960年に設立された。現在はインド各地で7校が運営され、約15,000人が学んでいる。
監督:岩佐寿弥 プロデューサー:代島治彦 音楽:大友良英 絵・題字:下田昌克
撮影:津村和比古 編集:代島治彦 整音:滝澤 修
通訳・コーディネーター:ツェワン・ギャルツェン ボランチ:南 椌椌
現地コーディネーター:中原一博 チベット語監修:貞兼綾子
翻訳:クンチョック・シタル ロディ・ギャツオ ソナム・ツェリン ドルマ・セーリング
日本語字幕:赤松立太 英語字幕:アーリーワイン直美 字幕制作:パッソパッソ
特殊動画制作:竹内洋祐 音楽制作:佐々木次彦 音楽録音:葛西敏彦
演奏:江藤直子 佐藤芳明 大友良英 宣伝美術:長友啓典
特別協力:ダライ・ラマ法王日本代表部事務所 チベット子ども村(Tibetan Children Villages)
制作・配給:スコブル工房 企画・製作:オロ製作委員会
2012年/108分/日本/チベット語・日本語/HD/カラー・ステレオ/日本語字幕付き